1、はじめに
キーワードを選んでいるとき、一本目のビデオの内容を思い出した。そのタイトルは、「働きざかりのうつ病」。現代の激しい労働社会で、うつ病にかかる人が増えており深刻な問題になっている。このビデオでは医療の現場については述べていなかったが、将来、医療の場で働くであろう自分にとって、職業からくる病は深刻な問題なので、このテーマについて調べてみようと思った。
2、選んだキーワード
職場、メンタルヘルス
3、選んだ論文の内容の概略
(1)心身症について−職場のメンタルヘルス
ストレス社会と呼ばれる現代には、本来は健康で溌刺と働いて社会の中核を担うべき就労世代の人々の中にも、心身の不調を訴える人が増加している。これらの人々の病態を考える時、いわゆる「うつ病」の観点から、自殺予防のためにも早期発見、早期治療が重要であるが、従来の精神疾患としての「うつ病」としてのとらえ方では事足りないことが多い。すなわち、これらの人々は単に抑鬱気分を訴えるだけではなく、おもにプライマリケアの内科を中心とする身体科を受診することが多いからである。心身症として取り組まなければならない。そして、これは心身症を診る専門家としての診療内科医だけではなく、すべての医療者がこのことを念頭において、心身医学的アプローチをもって全人的医療を実践していかねばならない課題である。
病態と職場とに深い関連があると思われる疾患の特徴としては、@過剰労働(オーバーワーク)、A職場での人間関係の葛藤、B私生活でもストレス要因が重なった点があげられる。別に、当院の医師63名、看護師168名にアンケートを実地したが、そこでも、職場のストレス要因としては2ないし3勤務交代制や時間外労働の多さ・あいまいさを含む過剰労働と職場の人間関係であった。また、文献的にはこれに加えて私生活との両立、時間的切迫と組織的欠陥の因子があげられている。
さらに現代には、さまざまな問題点があると思われる。すなわち、企業再編や日本の経済構造の変化に伴い、いわゆるリストラが進行している。さらに、中年期の上の世代では、年金の支給時期が遅延し、その額にも不安があるとなれば、のん気に悠々自適の生活を送るわけにはいかず、再就職が必須である。年齢的な体力の低下も加わるが、相応の収入を得ようと思えば、おい労働条件がきびしくなる。一方、それより若年者層で企業に残った人たちもまた、人減らしによって労働条件は過酷になっている。こうして各職場内で、各世代間でも、それぞれゆとりのなさから人間関係もギクシャクしてくる。
こういった悪循環に加えて、コンピューター業務がさらに世代間のギャップを生み出したり、その作業そのものがテクノストレスとして肩こり、頭痛、腰痛、さらには運動不足から来るメタボリック・シンドロームなどを引き起こしてくる。また、同じ職場といえども働く者どおしの連帯感、相互のサポートが得られにくくなっている。さらに私生活面でも、老親介護の問題などが重くのしかかってくる。ちょうど夫婦間や親子間のコミュニケーションにも再考を要する時期にもさしかかっている。
このような状況のなかで、心身が悲鳴をあげ、燃え尽き現象として何らかの症状を呈してくるのである。したがって、これらの患者は精神疾患ではなく、心身症としてとらえられるべきである。各専門領域の特殊療法に加えて、患者の心理社会的背景を鑑み、休養を指示したり、プライマリケア医としても最低限の抗うつ剤や抗不安薬、眠剤の使い方に精通する必要がある。また、患者だけではなく、われわれ医療者も含めて、何人もの自己の立脚する社会、時代からは逃れられない。社会構造やや時代の変化とともに、疾患や職場のメンタルヘルスも変換しつつあるが、現状を見据え、これをよりよい方向に改善していく責任もまた、われわれ一人一人に課せられた義務である。
結論として、社会的支援や職場の関係調整が根本的にストレスの軽減をもたらすと思われる。一方では、このように組織的に職場のメンタルヘルスの向上に取り組むとともに、他方では前述のように、すべての医療者が患者の心理社会的背景を念頭に置いて、心理医学的アプローチをもって全人的医療を実践していくことが重要と思われる。
(2)職業性ストレスに対する健康心理学的接近
−認知と対処、仕事の裁量度、およびメンタリングを変数として−
職業性ストレスの研究における最近の健康心理学が果たす役割を論じている。まずは就労者の職場ストレッサーとストレス反応との間に介在する個人要因と干渉要因が重視されるに至った経緯と、心理学の歴史的変遷との対比を試みている。そのうえ本論では、特に職業性ストレスモデルの媒介変数である認知的評価と対処方略、仕事の裁量度、そしてメンタリングの有用性について最近の動向と我々のプロジェクト研究の知見を交えて論述している。最後に、職業性ストレス研究において健康心理学が用いる主な尺度を提示し、今後の健康心理学研究の方向性を示唆している。
従来の職業性ストレス研究は、職場におけるストレス対策によって就労者の身体的および精神的な障害の発生を予防する目的において行われてきた。したがって実際の職場にどのようなストレッサーがどの程度表出しているのかを知る必要があった。ストレス刺激とストレス反応における関連性を、質および量において関連的に把握することに精力が注がれた。そのうえで好ましくない反応の出現をもたらすストレッサーに対する第一次予防対策が、次にストレス反応の低減を図る第二次予防対策が講じられた。このような研究と実践の過程において、ストレッサーやストレス反応の質と程度を測定する必要性から、妥当性と信頼性の高い数々のストレス関連尺度が開発された。
しかしフィールド研究が進むに連れて、職場ストレッサーの種類には職種や部署に共通なものと特異なものがあり、ストレス反応の現れ方にも個人差が著しく多様であることに加え、両者の間に介在する個人要因や干渉要因が重要な働きをしていることが明らかになってきた。すなわち職業性ストレスの諸問題は、ストレッサーとストレス反応との一義的な因果関係においてのみ解決されるものではなく、就労者個人の特性や職場の環境によって個々のストレス状態は著しく相違するという視点が不可欠になった。最近のストレス研究を概観してみると、個人の有している資源や能力をはじめ、性格や認知面における個人要因が重視され、同時に個人が置かれている環境要素としての対人関係性やソーシャルサポートなどの干渉要因が扱われるものが多い。いわばストレス刺激とストレス反応との間に介在する有機体変数が研究の主な対象になったといえる。
こうしたストレス研究の流れを心理学の歴史に照らしてみるとき、LazarusとFolkmanの心理学ストレスモデルがあげられる。この考えの中心は、人間にとってのストレス状態(反応)は、内外のストレッサーと個人のパーソナリティや対処能力などとの相互作用的な評価過程を経て発現するとした点である。
わが国の健康心理学的研究の枠組みにおいてもLazarusの心理学的ストレスモデルが基本となっているが、就労者の精神的健康の予防や維持を目的としたストレス・マネジメントの提供に際しては、Lazarusのモデルに準拠しつつも実際的で簡素な理論モデルに則した接近が有効であると考えられる。近年わが国でも色々なモデルが提唱されている。
本論では、最近の職業性ストレス研究において健康心理学が注目している、個人要因としての「認知と対処の柔軟性」と、干渉要因として職場における就労者の「仕事の裁量度」および「メンタリング」を中心に、各々の媒介変数の有用性を順に論じることにした。個人要因としての認知と対処の柔軟性は、就労者のストレッサーに対する認知と対処が状況に適合的であるか否かが精神的健康を規定すると考える点で新たな視点を提供し、仕事の裁量度とメンタリングという干渉要因は、就労者個人の精神的健康の維持と同時に、職場における組織的枠組みからさまざまな疾病に対する予防を示唆するという点でも有用性は高いと考えられる。
個人要因としての認知的評価とコーピング柔軟性を考える場合、従来の職業性ストレス研究は、複雑に絡み合うストレス現象を適切に捉えるために、疾病理論に基づくモデルの設定と、その検証によって発展してきたといえる。こうした研究によって、職場において発生する様々なストレッサーにより就労者がストレス反応を発現し、職場不適応から疾病へと発展する経路が明らかにされてきた。
このように疾病モデルに基づいて、職業性ストレスの発生に影響を及ぼす諸要因とストレス反応が検討される一方で、ストレス反応に見られる個人差を説明する必要があった。すなわち外的要因だけではなく、個人がストレス状況をどのように捉え、いかに対処するのかという個人要因を扱わなければならなくなったのである。
認知的評価やコーピングが検討される際に重要なことは状況に適したコーピングが採用されればストレスの解消あるいは緩和につながるが、不適切であれば逆にストレス反応を高める結果になることから、その効果が状況との適合性に依存している点である。
しかしながらストレス状況は静的なものではなく、時間的にも環境的にも多様に変化するものである以上、状況の変化に相応しいコーピング方略が採用されなければ適合性は確保できないと考えられる。したがってコーピングの有効性について議論する場合、「状況の変化」という要素を考慮しなければならないことになる。すなわち人の臨機応変な対処を捉えようとする文脈において、コーピング柔軟性という概念が導入されるようになった。
コーピング柔軟性を状況適切性との関係で見る場合、人が状況の変化をどのように捉えるかが重要であるが、それはLazarusらによって一時的評価と二次的評価として位置づけられている。すなわち一時的評価はストレッサーの影響性や脅威性を、二次的評価では状況が統制可能か否かが判断されるという認知過程が想定されている。したがってコーピング柔軟性を扱う場合の立場として、ストレッサーに晒されたコーピング方略を変えるか変えないかは、ストレス状況の変化後における一時的ないしは二次的な認知的再評価に依存すると考える点が重要である。
コーピング柔軟性についてみると、コーピングに失敗しても一貫して近接型のコーピングを採用する方が、回避型のコーピングに固執するよりも精神的健康度は高いこと、また以前は行動型のコーピングであっても、ダメな場合には潔く認知型へシフトした方が精神的には健康的であることなどが明らかになった。またコーピングの種類によっては固執型が良い場合と変動型が良いケースがあり、コーピング柔軟性の概念的妥当性が示唆される結果も得られた。その背景として、就労者の職務満足感を高めるためには状況に応じたコーピング柔軟性が必要なのであって、状況適切性の視点に基づく議論が有効であることを示していると考えられる。結局、個々の就労者にとって職場に特有な環境から受けるストレスは多様かつ特異的であり、環境とのトランスアクショナルな認知過程とコーピング柔軟性は欠くことができない個人要因であることを示唆している点で重要である。
以上のように、就労者のコーピング柔軟性の効果を、状況変化に対する認知と適切な対処という視点から分析することによって、ストレス状況における媒介過程の重要性が浮き彫りになり、個人に対するストレス・マネジメントの具体的な提案が可能になるであろう。同じ職場ストレス状況に置かれても認知的評価は多様であることを考慮し、職場環境の整備だけではなく、個人の認知面及び行動的側面を理解し、介入していくことが重要なのである。そのためには、ストレス状況およびその変化に対する認知の歪みを吟味し、行動面に関してはコーピングのレパートリーを増やすとともに、適切なものが選択できる指導や訓練を推進する必要がある。それこそ職業性ストレス研究において健康心理学が果たすべき役割でもある。
干渉要因としての仕事の裁量度を考えると、就労者がどのようにして職務に取り組むか、もしくは取り組めるかということは、職務満足感とも関連して職場の精神的健康と深い関係がある。例えば、職務の方針や目標に関与できたり、職務遂行の方法や手順が自分に委ねられたりすると、精神的な負荷はかかるが反面において職務満足感は高まることによって就労者の精神的健康が損なわれることは少ない。
本節では、まず就労者の精神的健康維持に関する仕事の裁量度の有用性について、個人の精神的健康維持への視点の影響と、組織の枠組みとして精神的トラブルの予防という点から述べる。
仕事の裁量度を干渉要因として取り上げたのはKarasekで、彼は「仕事の要求―コントロールモデル」を提案した。
Karasekは仕事の裁量度が低く、かつ職務上の要求が高い群を”High
Strain Job”群とし、そのような職場環境では就労者の精神的健康が最も阻害されることを指摘した。つまりこの条件にある就労者の精神的健康を保つためには、図3に示したように、「@職務上の要求を減らす」か、「A仕事の裁量度を高める」、または「B職務上の要求を減らし、かつ仕事の裁量度も高める」という方向が考えられる。特にAは、職務上の要求が高くとも仕事の裁量度を高めれば、精神的健康の維持が可能であることを示唆している。職務上の要求、すなわち職場のストレッサーが内容によっては低減することが困難な場合も考えられるが、低減されなくとも、仕事の裁量度を高めることで精神的健康を維持しうるということはJDCモデルの独自の視点である。
今回は主に仕事の裁量度を、就労者の職場ストレッサーとストレス反応との間に介在する干渉要因とみなすことによって、基本健康に関連付けて論じてきた。しかし歴史的に見ると、仕事の裁量度は精神的健康と関連研究の前に、職務設計の研究において、職務満足感を向上させる要因として取り上げられていた。すなわち、仕事の裁量度を高めれば、職務満足感が高められることによって精神的健康が維持・増進される可能性があるということであった。今後は、仕事の裁量度という概念も、これまでに実証されてきた干渉要因としての有用性を踏まえて、就労者の精神的健康の生成に寄与しうる一層大きな枠組みにおける研究として位置付けられる必要があると考える。
干渉要因としてのメンタリングについて、われわれが新しく職に就いた時、あるいは転職したり新たな部署に異動したりしたとき、職場の上司や先輩から仕事の内容や進め方、職場のフォーマルまたはインフォーマルな決まりごとが教授される。メンタリングには多くの機能があるが、中でも先に議論された仕事の裁量度との関係でいえば、メンターがさらにその上位者からのプロテジェへの指示を一旦受け止め、プロテジェが余裕をもって仕事が出来るようにする「保護」という機能が注目される。
メンタリングの機能には、直接的にキャリア発達を支持する機能と、情緒的な安定を支える機能がある。組織内で実行可能なメンタリングを扱っているが、メンタリングの効果は、キャリア発達や高業績といった企業的価値を主な基準として論じられている。しかし、健康心理学の観点からは、そのような企業的価値とは異なる視点、すなわちメンタリングと職業性ストレス、就労者の精神的健康との関係を明らかにすることが重要な課題であると考えられる。ところで、我々の研究では、メンタリングの影響を多く受けている捉えている就労者は、影響は少ないと捉えている就労者に比べて心理的ストレス反応は低く、職務満足感は高いという結果が得られている。慨述のように、対象者は企業従事者だけではなく、さらに、公式的なメンタリングが行われている職場でもない。本来、メンタリングは自発的かつ非公式に実地されるものであるとするならば、メンターとプロテジェの関係は多くの職場で成立するはずであり、そのことが就労者の精神的健康に寄与するところは大であろう。
今後の展望としては、序論で述べたように従来の職業性ストレス研究は、身体的および精神的障害の発生に対する予防の立場から、ある意味で疾病モデルに準拠した形で展開されてきた。メンタルヘルスに万全はないといえ、就労者個人の要因とともに、彼らを取り巻く職場の組織的環境要員の改善には多くの余地があると思われる。そうした領域における貢献こそ健康心理学の役割であろう。本論で取り上げた認知とコーピングの個人要因や、仕事の裁量度やメンタリングという干渉要因の有用性の議論はその貢献の1部ではあるが、どちらかといえば予防的問題解決志向性が強い。しかしこれからの健康心理学が目指すべきは、就労者を含めた人の精神的健康のさらなる増進であり生成ではなかろうか。この新たな視点で健康生成的志向性を追及する健康心理学にAntonovskyが提唱する「健康生成論」がある。従来のリスク・ファクターに基づいた「疾病生成論」に対して、健康生成ファクターとそのメカニズムを明らかにしようとするものである。その中心的概念はSOCと称されるものであり、人間誰もが持っている健康に対する対処能力、いわば「生きる力」の活かし方を探求するものである。
4、考察
序論でも述べたが、ビデオの内容は、うつ病についてだった。ビデオと論文について考えると、今後ますます複雑化していくであろう社会・職業現場問題に対して、我々医療従事者は単純に考え、軽率に扱っていたのでは、決して解決しないだろう。これからの健康心理学と地域医療が目指すべきは、就労者を含めた人の精神的健康のさらなる増進であり生成であると思う。
5、まとめ
職場とメンタルヘルスについて考えて思ったのは、結局、問題の相手となるのは「人間」であるため、長い目で見ていかなければならないと思った。その人が病気になったからといって解雇したり、成果主義ばかり追い求めてはならないと思う。結果ばかりにとらわれずに、人は企業にとっての「労働力」なのであるわけだから、その部分を大切に扱うことが結局は結果につながる。
将来、医療に携わる者として、色々と考えさせられました。